Book Review 16-3 人物 # 尾崎放哉(おざき ほうさい)

『海も暮れきる』(吉村昭著)を読んでみた。

 

尾崎放哉の人生をまとめると、「酔漢」「結核」「自由律俳句」となろう。著者の吉村昭氏も青年期に結核で生死の境を彷徨ったため、尾崎放哉に興味をもったようだ。明治時代に一高、東京帝大を出た秀才が、酒で人生を台無しにした男の最晩年の八ヶ月の日々を描く。本書を読むまで、尾崎放哉も自由律俳句についても知らなかった(最近は「プレバト」で少し俳句に興味を持つようになったが)。

数年前に、放哉のような酒に溺れる者に出会い、その対応に四苦八苦した。飲まなければ善人なのに、飲むと豹変する。そしてそれを繰り返す。そして人間関係を破壊し、周囲に疎んじられる。薬やアルコール依存症の怖さである。

 

お金のなく生きる卑屈さ、一芸に秀でたものも生き様を描き出している。反面教師としての読み物ともなっている。

 

最後に、放哉の句をいくつか挙げておこう。

「咳をしてもひとり」

「いれものがない両手でうける」

「なにがたのしみで生きていゐるのかと問はれて居る」

「死にもしないで風邪ひいてゐる」

「なんと丸い月が出たよ窓」

「美玖がやせて来る太い骨である」

句碑

「はるの山のうしろからけむりが出だした」

 

定型の俳句よりも、訴えかけてくるように感じるのは私だけか。