Book Review 30-6 マンガ #PLUTO

『#「PLUTO」を漫画で読む』(浦沢直樹×手塚修著)を、有名漫画家が勧める漫画ということで読んでみた。

PLUTO』(プルートゥ)は、手塚治虫の『鉄腕アトム』(地上最大のロボットの巻)を原作としてリメイクした作品。ビッグコミックに、2003年から2009年まで連載された(題字のUは二本角を模している)。

原作を読んでいないので、ネット検索してみた。原作は1951年から雑誌「少年」に連載された「アトム大使」を前身とし、翌1952年に「鉄腕アトム」と改題して連載を開始した。すると人気を博し、1968年3月に「少年」が休刊するまで連載が続けられた。まず、アトムの誕生日は2003年4月7日である。身長135cm、体重30kg。製作者は天馬博士。交通事故死した博士の息子の「天馬飛雄」に似せて作られ、当初は「トビオ」と呼ばれていた。トビオは、人間とほぼ同等の感情と様々な能力を持つ優秀なロボットであったが、人間のように成長しないことに気づいた天馬博士はトビオをサーカスに売ってしまう。その後、幾つかのシリーズを経て『PLUTO』(プルートゥ)へと続いてゆく。アトム、ウラン、お茶の水博士しか知らなかった私には、『PLUTO』は驚きの展開であった。

アラブの王がアブーラ博士に命じ、二本角を持つ百万馬力の巨大ロボットプルートウを完成させる。そして、プルートウに世界各地にいる最高のロボット7人(日本のアトム、スイスのモンブランスコットランドのノース2号、トルコのブランド、ドイツのゲジヒト、ギリシャヘラクレス、オーストラリアのエプシロン)を倒し、地上最強のロボットであることを証明するよう命じる。プルートウは、命令を守り、同族のロボットたちを無慈悲に破壊していく。アトムもやむなく天馬博士に頼んで、百万馬力にパワーアップしてもらう。やがて、プルートウの中にも良心が芽生え、アトムとの対決中に起きた阿蘇山の噴火を協力して食い止める。しかし、ゴジ博士が造った二百万馬力のロボットボラーが2人の前に立ちふさがり、傷ついたプルートウはボラーを巻き込んで自爆する。じつはプルートウを造ったアブーラ博士と、ボラーを造ったゴジ博士は同一人物であった。サルタンの召使ロボットだった彼は「世界一のロボット」を欲しがる主人のためにプルートウを造ったが、その使われ方を憂い、プルートウを倒すためにボラーを造ったのだった(八巻分を数行で要約するのは難しいので、貸本屋で借りて読んで欲しい。私は札幌図書館で借りた)。

さて、リメイクを了承した息子手塚眞は浦沢作品として本作を描くことを要望した。人間と高性能ロボットが完全に共生する近未来で起こるSFサスペンスとして描いた。誰もが指摘している点であるが、アトム(一巻)やウラン(二巻)の登場が各巻の最終頁というのが意表を突いている。

アトムをはじめとするキャラクターデザインやストーリー設定の一部には浦沢流のアレンジが加えられている。手塚治虫氏の原作では「アトム」が主人公ではあるが、浦沢直樹版では原作で脇役として登場したドイツの刑事ロボット「ゲジヒト」の視点から物語が描かれている。ロボットのキャラクターデザインは独自のデザインになっている(人間に近い、人間と見分けがつかない)。殺され方や殺される順番が異なっているそうだ。「憎しみからは何も生まれない」という言葉でマンガは終わっている。現在、展開されているガザ・イスラエル戦争にしてもウクライナ・ロシア戦争にしても、戦う者同士の歴史的解釈の違いが大きいのであろうあろうが、憎しみを前面に出して戦われている。

2024年現在、生成AIがあらゆる分野を席巻している。74年前に手塚治虫氏が憂えた「憎しみを前面に出して戦う」状況は益々悪化の一途を辿っている。生成AIを用いても復讐するという人間行動は忘れ去られることはなく、私たち人間は何も進歩していない。