Book Review 13-1 戦争を扱った小説 灼熱

 

『灼熱』(葉真中顕著)を読んでみた。

 ブラジル移民を扱った本である。移民というより棄民ととらえられる。

沖縄生まれで移民してきた男(勇)と日本移民二世(トキオ)との友情・信頼の物語である。1934年、ブラジルの日本人入植地「弥栄村」で出会った二人は、かけがえのない友となる。

 太平洋戦争前まで助け合っていた日本人村が、戦争終結後に「負け組」と「勝ち組」に分かれて、いがみ合う。分断が加速しフェイクニュースが横行する。ここから物語は加速してゆく。両者は殺し合い、終には23人もの死者と多数の負傷者を出す。

 戦争の結果の解釈をめぐって日本人同士が殺し合う。これも戦争映画に括ることができよう。現在、ネットに大量の情報が溢れ、多くの者が自分の好みの情報にしかアクセスしない。2021年1月6日のトランプ信者の議事堂乱入事件を思い起こさせる。

戦争に絡んでの登場人物たちの背景や敗戦後の流れが最後に示され、一気に読ませる。悪人と思われる人物の思惑やその後の行動に作者は救いを与えている。読後感は悪くない。