Book Review 24-10歴史 #箱館売ります

 

『#箱館売ります―幕末ガルトネル事件異聞』(富樫倫太郎著)を読んでみた。著者は函館市出身。日本推理作家協会所属。

 

松前図書館で松前に纏わる特集をやっていたので借りてみた。ガルトネル事件についてご存じであろうか。私は本書を読むまで知らなかった。箱館に近い七重村の土地をプロイセンの貿易商ガルトネルが箱館奉行所から借り受けた(契約には、七重村およびその近傍の約300万坪を99年間租借することや有志を選びヨーロッパ農法を教授することなどが含まれていた)。それを明治政府箱館府が土地の開拓推進のために彼の計画に同意し開墾が始まった。そのさなかに箱館戦争が始まっている(箱館戦争については同じ著者の『松前の花』に詳しく書かれている)。

 

本書は箱館戦争の進捗する中(明治新政府軍が箱館を攻撃し、わずか1週間後には榎本武揚の降伏により蝦夷島政府は倒れる)、ガルトネルの契約を破棄させる行動に出る土方歳三やその他多くの人物を描写している(どの本を読んでも土方歳三は京都では新選組で大勢を殺戮した男にすぎなかったのが、北海道に渡ってからは人徳があり戦略に優れた英雄に変貌している)。この売買話にはプロイセンのガルトネルの陰にロシアの思惑が見え隠れしているのである(この土地を足掛かりに中国と同じようにロシアが日本を植民地にしようというのだ)。

 

果たして、ロシアによる日本の植民地化を阻止できたのか。

 

植民地化や分断が避けられなかったという想定のSF(歴史改変小説)『ひとつの祖国』(貫井徳郎著)を同時期に読んでみた。この小説世界では、太平洋戦争末期にソ連が日本本土に侵攻し(もちろん不可侵条約違反)、東京まで南下してきたので天皇は這う這うの体で京都に逃げてしまう。その結果、日本はドイツのように東西に分断される。やがてドイツ同様に東西は統一するが、東西の格差は埋まらない。標準語は関西語となり、東日本人は安価な労働力を提供するだけの二級市民となっている。そこに東日本の独立を画策するテログループが出現・・・。現在の韓国と北朝鮮のようだ・・・。

 

他には『抵抗都市』、『偽装同名』(佐々木譲著:札幌出身)という歴史改変小説もある。日露戦争に「負けた」日本におけるロシアの属国と化した地での警察官の話。日露戦争終結から 十数年たった大正時代。敗戦国の日本は外交権と軍事権を失い、ロシア軍が駐屯している。警視庁は殺人の容疑者を捕らえるが、身柄をロシアの日本統監府保安課に奪われてしまう。・・・と植民地となった悲哀が語られる。

 

明治、大正、昭和と日本か植民地(または東西分断)となる日がすぐそこまで来ていたのだ。そう考えると問題は多々あろうが、現在の日本に住んでいることが幸せに思えて来る。