Book Review 16-11 人物 #曲亭馬琴

 

『#秘密の花園』(朝井まかて著)を読んでみた。著者は本屋が選ぶ時代小説大賞、直木賞等、数々の文学賞を受賞。最近は『ボタニカ』でNHKの朝ドラで有名になった植物学者である牧野富太郎を取り上げている。

 

秘密の花園」というタイトルは1909年に発行されたバーネットの小説で主に男性が妄想する男子禁制な女性の場所の比喩表現である。本書は当初「秘密の花壇」であったものを改題して『秘密の花園』としたそうな。どうも内容とそぐわない感じがつきまとうのだが・・・。この先もずっと何百年も、咲き続ける物語を種蒔き、育てあげたという意味か。

 

本書は『#南総里見八犬伝』を世に生み出した滝沢馬琴の人生を少年時代から緻密に描いた物語である。大名の家臣の家に生まれるが没落し、若くして放浪し続ける。最後に、戯作の道を志し、当代一の戯作者・山東京伝の門をたたく。その縁で蔦屋重三郎の店に奉公する。画家の葛飾北斎に挿絵を描いてもらう仲にもなる。終に江戸随一の戯作者となのだが……。

 

私は曲亭馬琴といれば『#南総里見八犬伝』しか知らない。本書を読んで沢山の戯作を書いていることを知ったが、曲亭馬琴の人生はトラブル塗れであることがわかる。癇癪持ちの妻、病弱な息子、問題だらけの板元等。私ならとっても我慢できない。それでも馬琴は、お家再興の夢を捨てず、締め切りに追われながら家計簿をつけ、息子とともに庭の花園で草花を丹精する(それがタイトルになったか)。28年を架けて書かれた全98巻『#南総里見八犬伝』。
 本書を読むと、江戸時代の背景や出版業界しくみ(2025年のNHK大河ドラマの主役蔦屋重三郎との関わり)、戯作者や版元の様子がとてもよくわかる。

 

息子の嫁「お路」の視点で書かれた『曲亭の家』(西條奈加著)もあるそうだ。NHKの人形劇(辻村ジュサブロー氏の人形)も有名(1973年4月から1975年3月まで、全464話が放送された)。

 

最後に、『#南総里見八犬伝』の内容を紹介する。室町時代後期を舞台に、安房里見家の姫・伏姫と神犬八房の因縁によって結ばれた八犬士を主人公とする長編伝奇小説である。「犬」の字を含む苗字を持つ八犬士は、それぞれに「仁義礼智忠信孝悌」の8つの徳の玉を持ち、牡丹の形の痣が身体のどこかにある。関八州の各地で生まれた彼らは、それぞれに辛酸を嘗めながら、因縁に導かれて互いを知り、里見家の下に結集する。

八犬士には、犬塚信乃(孝の珠)。名刀村雨を持つ美剣士。孝心厚く、正義感強く、思い込んだら後へは引かぬ熱血漢のため、数々のトラブルに巻き込まれる。

犬川額蔵(義の珠)。天涯孤独の身を信乃とその恋人・浜路に救われる。義理を尊び人情に泣き、身を尽くして親切にあたる好青年。

犬飼現八(信の珠)。不思議な因果で犬塚信乃と決闘。その後、薄幸の乙女・栞に恋する。ざっくばらんな人柄で、信義に厚い。

犬山道節(忠の珠)。口八丁手八丁、そのうえ火遁の術を修得して向かうところ敵なし。

犬田小文吾(悌の珠)。諸国を修行、相撲の奥義を極める。気は優しくて力持ち。

犬坂毛野(智の珠)。頭脳明晰で変装の名人。女田楽の美少女(実は男性)として登場し、その後も、居合抜きの師物四郎、鳥追い娘などに姿を変えて活躍。

犬村角太郎(礼の珠)。現八とともに化け猫を退治。折り目正しくまじめ。犬江親兵衛(仁の珠)。最後に登場する犬士。がっちりとした体格で力自慢。

現代語訳も出ているようなので、時間に余裕のある人は是非この大作に挑んでみて欲しい。