Book Review 16-5人物 # 古今亭志ん生

 

『なめくじ艦隊』(1953年発行)を読んでみた。本書は弟子の初代金原亭馬の助による聞き書きである。

古今亭志ん生は1890年の生まれ。本名は美濃部孝蔵。美濃部家は徳川直参旗本であった。博打や酒に手を出し、放蕩生活を続けた。1910年、三遊亭小圓朝に入門し、三遊亭朝太との前座名を名乗る。その後、16回改名している。1945年、陸軍の命令を受けた松竹演芸部の仕事で、圓生らと共に満州に渡り、1947年命からがら満州から帰国。その後、勲四等瑞宝章を受章。

志ん生落語の特徴は、軽さと奔放さ。旅行記の部分と貧乏暮らしの描写。戦中の中国への慰問時代。生死の狭間においても、腹をくくって酒を求めて、ノラクラするたくましさ。

本書のタイトルは貧乏長屋にでた巨大ナメクジの群れからとったものだそうだ。彼は家庭的なことに無頓着。家庭にお金をきちんと入れない。その分芸については熱心だった。破天荒な人生や貧乏暮らしが芸の糧となった。晩年には酔って高座に上がって落語をせず居眠りをしている姿もファンは珍しがってジーっと眺めていたという。

我が家にはガレージセールで買った志ん生のCDが二十数枚ある。その中に収録の『寝床』のまくらで、風呂屋で欠伸をしていた男の声がいつの間にか都都逸になるところや抜群の間で発するダジャレが笑いを誘う。『火焔太鼓』が十八番。

息子は金原亭馬生古今亭志ん朝。どちらも名人と言われている。

 

落語家といえば、志ん生と共に満州へ渡った三遊亭圓生が思い浮かぶ(この時代の二大巨頭)。圓生については、弟子の三遊亭圓丈が『師匠、御乱心』を出版し、落語協会脱退の顛末を余すことなく書いている(その結果、圓生一門の円丈は真打昇進したばかりなのに寄席の高座に出られなくなった)。2018年に文庫で再出版し話題となった(今回は文庫版を参照)。三遊亭圓丈新作落語の祖とも言われ、このreviewのために初期の作品『悲しみは埼玉に向けて』をCDで聞いてみたが北千十に始まって東京周辺の地区の後進性を笑い飛ばしている。この作品を切っ掛けに埼玉が田舎と揶揄されるようになった。

落語を扱った本としては、立川談春が談志に入門した時代を綴った『赤めだか(2008年)』も面白い(談春志らく内弟子時代が語られている)。

補遺

『中野のお父さんの快刀乱麻』(北村薫著)の中に「古今亭志ん生の天衣無縫」と作品がある。その中で、蚊帳を20円札で買う話があるが、実話を落語に落とし込む際に志ん生は精細な気配りをしていると考察している。