Essay 3 医師と患者の関係

 

最近、森林学の大学院生と話す機会があった。「木をみて、森をみない」という言葉があるが、まさに字のごとく、森全体についての総合的な知識・技能をもった者が、森林学の専門家集団の中でさえ非常に少ないということを嘆いていた。

 医療においても、臓器を診ることができても、人間を総合的に診ることができない医師が氾濫していることを考え合わせると、専門家が細分化された分野に埋没し、その結果、全体を語ることができなくなっているという現象は現在の全学問領域に共通の問題のようである。

 しかも、医療における問題はそれに留まらない。木に対しては一定の知識・技術で対応すれば誰がやっても同じ結果になるが、人間に対してはそうとは限らないからである。治療効果には医師の「態度」が大きく影響を与えるということがはっきり認識されたのは最近のことである。医師と患者が良好な関係を築くことによってはじめて治療効果をあげることができるのであるということを、医師自らが学び、真の意味で「患者中心の医療」を目指すことが、21世紀の医学教育を考える上で重要となってくるであろう。