Book Review 10 建築 剛心/塞王の楯

 

『剛心』(木内昇著)を読んでみた。

剛心とは、心の強い人のことかと思ったら、建物の強さの中心のことをいうそうだ。建物が持っている強さの中心点を「剛心」と呼ぶ。まさに主人公は「剛心」と呼ぶにふさわしい。読後に納得できるタイトルと思えた。

著者も本書の主人公も、江戸時代からの江戸の風景を大事にしている。建築とはこれまでの文化や歴史に根付いた風景に調和しなければいけないという根本思想があるようだ。本書は妻木頼黄(つまきよりなか)とその時代を描く建築小説である。天涯孤独の身で若くして単身渡米し、米国の大学で建築を学んで帰国後にその力量を買われ、井上馨の「官庁集中計画」に参加する。圧倒的な才能と情熱、ぶれない根本思想と部下(大工や左官等)を統率する能力がすごい。まさに理想のリーダーである。

日本は日清戦争1984年(明治27年)に、首都機能を広島に移している。天皇も転居している。これは明治維新以降、首都機能が東京から離れた唯一の事例である。そのとき限られた時間のなかで障害を跳ね返しながら広島臨時仮議院を建設するエピソードは、現在の各分野のリーダーたちの参考になるだろう。妻木を支える妻のミナをはじめ、部下の妻たちの夫を支える姿勢も好ましい(こんな妻が欲しかった)。職人たちの良いものを後世に残そうとする姿勢が妻木によって引き出されてゆく。様々な部署との交渉や後進の育成法が素晴らしい。

 

2022年に直木賞を受賞した『塞王の楯』(今村翔吾著)も建築小説と言えるかもしれない。石垣職人は「絶対に破られない石垣」を造れば、世から戦を無くせると考え、一方、戦で父を喪った鉄砲職人は「どんな城も落とす砲」で人を殺し、その恐怖を天下に知らしめれば、戦をする者はいなくなると考え、命を削る。「最強の楯」と「至高の矛」の対決を描く、圧倒的戦国小説である。