Book Review 2 リウーを待ちながら

『リウーを待ちながら』(朱戸アオ著)を読んでみた。2017年から2018年まで某漫画雑誌に連載された全3巻の医療サスペンスである。

この漫画を知ったのは、菅義偉首相に日本学術会議の新会員任命を拒否された加藤陽子氏(東京大学大学院教授)が毎日新聞で推薦していたからである。日本近代史が専門の歴史学者が、感染症をテーマとした漫画を読んでいると知り購入した。

さて、女性主人公は富士山麓にある病院で働く内科医である。ある日、駐屯自衛隊員が吐血し昏倒したことから物語は始まり、同じ症状の患者が相次いで死亡する。原因不明のまま(後に肺ペストと判明)事態は悪化の一途をたどり市は封鎖されてしまう。静かに死にゆく街で懸命に生きようとする人々の姿を描く物語である。一歩間違えると日本の近未来になりかねない。この漫画は、地域医療実習に来ている研修医・学生に毎回貸し出しているが大好評である(3冊を3人で回し読みして1日で読み切っている)。タイトルとなっているリウーはカミュの小説『ペスト』の中で活躍する医師の名前である。タイトルの後半の『・・・を待ちながら』は、不条理劇の代表作として演劇史にその名を残したサミュエル・ベケットによる戯曲『ゴドーを待ちながら』から借用したものと思われる。

日本中がコロナ禍で閉塞感が漂う中、カミュのその『ペスト』が本屋で平積みになって売れているという。NHKの「100分de名著」でも取り上げている(視聴し、テキストも購入)。なお、この小説はアルジェリアのオラン市にペストが発生したという架空の設定である。市をペストが襲い、苦境の中、団結する民衆たちを描き、無慈悲な運命と人間との関係性が問題提起されている。人生の不条理は避けられないという考えを力説する。戦時下の不条理に対する人々のさまざまな反応を示し、いかに世界が不条理に満ちているかを表したと言われている。「100分de名著」の解説者中条省平氏は「自分にできることをする」ことのなかにこそ、人間の希望があると述べている。

上記の漫画と併せて、研修医には映画『コンテンジョン』も紹介している。2019年に発生したコロナ禍を予言したような映画である(2011年制作、スティーブン・ソダーバーグ監督)。映画は第二日から始まる。香港での所用を済ませた女性が自宅でけいれんを起こし意識を失い、死因不明で病死する。感染は世界中に拡大してゆく。原因がブタ由来の遺伝物質とコウモリウイルスの合成物であることを突き止める。そしてワクチン開発に狂騒する。この時点で、全米では250万人、全世界では2600万人が死亡している。・・・物語の終幕に初発女性の第一日の様子が写される。最後のこの一分間は、これまでの人間の活動への警鐘となっている。

ついでに、ゴルゴ13がアフリカからアメリカ本土へ向かう豪華客船でエボラ出血熱との闘う話がNHKで取り上げていた。コロナ禍で、新ストーリーを作成できず、休刊とすることを迫られた状況で、さいとうたかお氏は過去の作品を再掲載することにした。そこで選ばれたのが『ゴルゴ13』第114巻第381話である。2020年1月20日に横浜港を出港したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号での新型コロナウイルス禍とそっくりな感染状況を25年前に予告している。漫画は、ゴルゴに密輸サルの涎が顔にかかり、エボラ出血熱に感染したことを知る。ではゴルゴはここからどう切り抜けるのか?